renment

JOURNAL

Interview
2022. 7. 21

【対談・第一回】連綿とつむぐ、物語のはじまり。
〜コットンへの想い、未来への願い、次の100年

100年以上にわたり品質にこだわり抜いたコットンを作り続ける近藤紡績所の近藤大揮社長。幾多のものづくりの現場と関わりながら世界的に活躍するテキスタイルデザイナーの梶原加奈子さん。二人が出会い協業により生まれたプロジェクトブランドrenment[レンメント]に込められた想いについて、余すことなく語っていただきます。

第一回
renment[レンメント]の名に込めたもの
——[renment]という名前には、どういった想いが込められていますか?

【近藤】まず、[renment]という名前に込めたことは、ひとつはシンプルに、これまでの100年から次の100年へと長い時の流れを超えて、ものづくりを続けていきたいという想いです。もうひとつ非常に大きな想いとしては、綿を作っている方、運んでいる方、さまざまな場面で一生懸命に誇りを持って働いている方、そういう人たちを結びつけていきたいということです。もっと良いもの、もっと面白いものを作ることで、関わるすべての人をつなげていきたい。そういう想いを込めています。

【梶原】近藤社長は最初から一貫して、そう仰っていました。なのでブランドの名前を考えるときは、その想いから派生する単語をいろいろ考えて、若手社員の皆さんとお互いにアイデアを出し合いながら絞り込み、その中に[renment]という言葉が残っていました。最後に決断できたのは、連綿と「続けていく」という想いがここにしっかり宿っていると感じたから。ここが核となって、近藤紡績所のみなさんがいつでも立ち戻れる、そういう言葉がブランド名となっていくことに全員が共感しました。そして単に「レンメン」じゃなくて、「と」を付けたのが大事なところでした。

【近藤】「と」に特に想いが込もっていますね。終わらせず、続けていきたいという、我々の願望のようなものが。「綿」という漢字が入っていることも良いです。

【梶原】最初は「レンメン」という言葉が候補でしたが、「と」を加えることで未来へ続いてゆく願いを想像する奥ゆきが広がると思いました。「レンメント」、最終的にとても良い言葉だなと思っています。
ブランドのロゴについて
——ブランドロゴは筆記体で書かれていますが、どうしてこのようなロゴデザインにされたのでしょうか?

【梶原】名前が決まり、ロゴのデザインを決めることとなりました。実はこのロゴは、書道家である近藤社長のお母さまがお描きになった書が元になっています。本当にプロフェッショナルな方で、たくさん書いてくださったんですよね。とてもラインがきれいで、芸術的です。最初はrenmentのロゴはシンプルで読みやすい方が良いかと思っていたのですが、書道の表現にも心惹かれました。そして実際に描かれた書を見たとき自然の逞しさと同じような力強さを感じて感銘を受けました。大町工場から仰ぐ美しい山々の稜線を感じるような一本で繋がって表現されている文字には、コンセプトに込めた繋がっていく気持ちが宿っていると思いました。
ブランドが立ち上がるまで
——近藤社長と梶原社長が知り合ったきっかけは?

【梶原】そもそも私は近藤紡績所が紡績しているASIC(アメリカン・シーアイランド・コットン)[*1]を以前からよく使っていました。デザイナーとして製品を開発する際にどんなコットンを使いたいか問われれば「ASICを!」と第一に答えるほど、好きな糸なんです。なめらかで、ちょっと光沢感があって、上品で、自分の中で理想の品質。でも、その糸を作られている紡績工場までは深堀りしていませんでした。ある日、ある方から「近藤紡績所が作った新しい生地を見てほしい」とご紹介をいただいて、それは触れるとASICとはまた違った、この上もなく柔らかくふわっとした気持ちのいい素材で。日ごろたくさんの素材に触れているのに、まるで体験したことのないタッチに驚いたんです。とても軽やかで、なんだかティッシュみたい。「何だろう?どういう風につくったのだろう?」と。伺えば、ものすごく特殊な技術によるものでした。「これは世界の人にも紹介したい素材ですね!」とお話しするうちに、あの大好きなASICも近藤紡績所が作っていると分かり、そのつながりにも驚きました。でも、工場の皆さんは素晴らしい糸や素材を生産している一方で、それらを多くの人に知ってもらうための拡げ方に悩んでいるようで。私は日頃から手の触感で仕事をしているので素材に触れれば細かな違いがわかるけれども、一般の人には伝える工夫が必要だと思いました。どんな想いを持って、どんな配慮をしながら繊細なものづくりを続けているのか、その背景を発信していくためにブランディングが役に立つかもしれないと思い、私が今までやってきた仕事についてお話ししたところ、「近藤社長とお会いしてみませんか?」ということに。
【近藤】梶原さんに見ていただいたのは、watanomama[*2]という素材ですね。私たちは今、watanomamaという新素材に加え、ASICと、そして去年からカリブ産の海島綿という、世界で一番貴重な綿で糸を紡がせていただくことが決まっております。ですが、これらの製品も、自ら発信していかないと一般の方々にはなかなか良さが伝わりにくい。梶原さんには、世の中の人々にどうやったらこの価値が伝わるのかご相談をしたいと思いました。あと、これは私が本来やりたかったことなのですが、糸に撚りをかける撚糸屋さんであったり、機(ハタ)を織る機屋(ハタヤ)さんであったり、Tシャツの生地などを作るニッターさん、生地を染める染色屋さん、さまざまな工程に関わる人々がいて、そのすべての人が我々のお客様です。こういう方たちがまだ日本に残っていらっしゃる今、その想いも技も無くなってしまわないようにしたい…もっと言えば、こういう人たちと一緒になって何か面白いものを作るための、ものづくりのプラットホームとなる場があればいいなと思っていました。一緒になって面白い糸や生地を作り上げていったり、日本で唯一の繊維学部を持つ信州大学との共同研究を行ったり、いろいろなことができる、想いのある人が集まることのできるプロジェクトを是非、立ち上げたい。それが、私が一番やりたかったことでした。綿紡績をもう100年続けるために何をするべきかという想いにもつながっています。さらに、繊維はなかなか差別化が難しい中で、どうしたらオンリーワンになれるのかということを長いこと考えておりまして、その解のひとつがwatanomamaですし、世界で一番貴重な海島綿の糸を紡ぐことだったのかなと思っています。
【梶原】近藤社長と最初にお話した時に強く感じたことは、「素のままが好きな方なんだな」という事でした。あまり手を加えず、本来のタッチとか、存在感……言葉でうまく言えないんですけども、素朴なありのままの質感から、安らぎや良さを感じられる方なんだなと思いました。それは近藤社長の暮らし方や生きてきた中で育まれたことなのかもしれません。これからご一緒するときに、そこを一番大切にしなくてはならないと感じました。「生まれたばかりの赤ちゃんがくるまれるもの」という感覚を世の中の人に伝えていくにはどうしたらいいのかな、それはたぶん言葉の表現とか製品の選び方とか、すべて軸として残っていくだろうと思いまして。なので、今回お願いしたのは、近藤社長はとてもご多忙だとは思うのですけれど「必ず一緒に関わってください」とお話ししました。一緒にやっていただけるのでしたら、このブランディングに参加いたします、と。その関わり方がとても大事。ブランディングとは、架空のものを作り上げるのではなく、みなさんの中にある芯となるものを発見して、磨いて、どうアウトプットするか。それがとても大切なことなので、近藤紡績所の表現する素材についてイメージを持っている近藤社長の関わりが必要だと思いました。スタートしてから2カ月ぐらいかけてプロジェクトの根幹を近藤社長と若手社員の皆さんと頻繁に話し合い、問題点や志を1つ1つ追及し、共有しながら進めていきました。

【近藤】梶原さんにお願いしたいと思ったのは、やはり、本当にものづくりがお好きな方だからです。ご自身で現場まで行っちゃうくらい。繊維のものづくりというのは非常に地味でして、職人技とか華麗な技というよりは、きっちりと決められたことを地道にやり続ける世界です。そういうことを大切にできる人が、想いを持って作っているからこそ、人の心を動かせるものを作れるのです。表面上のデザインだけなら頭の中でできるかもしれないですけれど、着心地がいいものだとか、触れてホッとするタオルは、作る人の想いが必要なんです。そういう現場の想いをつなげていきたくて。繊維製品はボタンを押せばロボットが作ってというものではないので、人の気持ちを大切にしなくては。梶原さんは、そういうことを分かってくださる方だと感じました。

(第二回へつづく)
次回はブランド立ち上げの経緯についてと、近藤紡績所のモノづくりの精神についてお伝えいたします。[*1]   西インド諸島産海島綿のDNAを100%受け継ぐ、アメリカ産の最高品質の超長綿。紡績時の撚りが少なく、素材本来の質感を発揮できることから生まれる、シルクのような光沢と繊細な柔軟性が特徴。
[*2]  「糸を紡がない」というアイデアから生まれた、近藤紡績所の新素材。柔らかさ、軽やかさ、暖かさに優れ、ストレスフリーな着心地を実現している。 
特設サイト https://watanomama.jp/
——Profile

近藤大揮
(株式会社 近藤紡績所 代表取締役 社長)

ブランドアドバイザー 梶原加奈子
(株式会社KAJIHARA DESIGN STUDIO 代表取締役 社長)

北海道生まれ。多摩美術大学デザイン学部染織科卒業。株式会社イッセイミヤケ・テキスタイル企画を経て渡英。王立芸術大学院RCAにてMA取得。2006年帰国後、札幌と東京を拠点に(株)KAJIHARA DESIGN STUDIO設立。国内外でクリエイティブディレクター&テキスタイルデザイナーとしてブランディングや商品企画に関わり、札幌の自然のなかに複合施設COQを立ち上げる。日本のものづくりの継承を考えた活動や未来に向けて新たな価値観を創造することを通して、テキスタイルの持つ豊かな可能性を暮らしのなかに提案している。
http://www.kajihara-design.com
renment journal vol. 001
【対談・第一回】連綿とつむぐ、物語のはじまり。

Date: 28.5.2021
Text: Mika Kunii
Photo: Daisuke Mizushima
Special Thanks: mesm Tokyo

本対談にあたっては「メズム東京 オートグラフ コレクション(https://www.mesm.jp/)」のゲストルームをご提供いただきました。メズム東京のゲストルームでは、renmentとのコラボレーションで生まれたバスローブ兼パジャマ「KIMONOローブ」が提供されています。着物から着想を得たデザインの「KIMONOローブ」は、綿わたニット素材で肌にやさしく、うっとりするようなしっとりさらさらな肌触りを実現しました。

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