JOURNAL
【対談・第一回】連綿とつむぐ、物語のはじまり。
〜コットンへの想い、未来への願い、次の100年
100年以上にわたり品質にこだわり抜いたコットンを作り続ける近藤紡績所の近藤大揮社長。幾多のものづくりの現場と関わりながら世界的に活躍するテキスタイルデザイナーの梶原加奈子さん。二人が出会い協業により生まれたプロジェクトブランドrenment[レンメント]に込められた想いについて、余すことなく語っていただきます。
renment[レンメント]の名に込めたもの
【近藤】まず、[renment]という名前に込めたことは、ひとつはシンプルに、これまでの100年から次の100年へと長い時の流れを超えて、ものづくりを続けていきたいという想いです。もうひとつ非常に大きな想いとしては、綿を作っている方、運んでいる方、さまざまな場面で一生懸命に誇りを持って働いている方、そういう人たちを結びつけていきたいということです。もっと良いもの、もっと面白いものを作ることで、関わるすべての人をつなげていきたい。そういう想いを込めています。
【梶原】近藤社長は最初から一貫して、そう仰っていました。なのでブランドの名前を考えるときは、その想いから派生する単語をいろいろ考えて、若手社員の皆さんとお互いにアイデアを出し合いながら絞り込み、その中に[renment]という言葉が残っていました。最後に決断できたのは、連綿と「続けていく」という想いがここにしっかり宿っていると感じたから。ここが核となって、近藤紡績所のみなさんがいつでも立ち戻れる、そういう言葉がブランド名となっていくことに全員が共感しました。そして単に「レンメン」じゃなくて、「と」を付けたのが大事なところでした。
【近藤】「と」に特に想いが込もっていますね。終わらせず、続けていきたいという、我々の願望のようなものが。「綿」という漢字が入っていることも良いです。
【梶原】最初は「レンメン」という言葉が候補でしたが、「と」を加えることで未来へ続いてゆく願いを想像する奥ゆきが広がると思いました。「レンメント」、最終的にとても良い言葉だなと思っています。
【梶原】名前が決まり、ロゴのデザインを決めることとなりました。実はこのロゴは、書道家である近藤社長のお母さまがお描きになった書が元になっています。本当にプロフェッショナルな方で、たくさん書いてくださったんですよね。とてもラインがきれいで、芸術的です。最初はrenmentのロゴはシンプルで読みやすい方が良いかと思っていたのですが、書道の表現にも心惹かれました。そして実際に描かれた書を見たとき自然の逞しさと同じような力強さを感じて感銘を受けました。大町工場から仰ぐ美しい山々の稜線を感じるような一本で繋がって表現されている文字には、コンセプトに込めた繋がっていく気持ちが宿っていると思いました。
【梶原】そもそも私は近藤紡績所が紡績しているASIC(アメリカン・シーアイランド・コットン)[*1]を以前からよく使っていました。デザイナーとして製品を開発する際にどんなコットンを使いたいか問われれば「ASICを!」と第一に答えるほど、好きな糸なんです。なめらかで、ちょっと光沢感があって、上品で、自分の中で理想の品質。でも、その糸を作られている紡績工場までは深堀りしていませんでした。ある日、ある方から「近藤紡績所が作った新しい生地を見てほしい」とご紹介をいただいて、それは触れるとASICとはまた違った、この上もなく柔らかくふわっとした気持ちのいい素材で。日ごろたくさんの素材に触れているのに、まるで体験したことのないタッチに驚いたんです。とても軽やかで、なんだかティッシュみたい。「何だろう?どういう風につくったのだろう?」と。伺えば、ものすごく特殊な技術によるものでした。「これは世界の人にも紹介したい素材ですね!」とお話しするうちに、あの大好きなASICも近藤紡績所が作っていると分かり、そのつながりにも驚きました。でも、工場の皆さんは素晴らしい糸や素材を生産している一方で、それらを多くの人に知ってもらうための拡げ方に悩んでいるようで。私は日頃から手の触感で仕事をしているので素材に触れれば細かな違いがわかるけれども、一般の人には伝える工夫が必要だと思いました。どんな想いを持って、どんな配慮をしながら繊細なものづくりを続けているのか、その背景を発信していくためにブランディングが役に立つかもしれないと思い、私が今までやってきた仕事についてお話ししたところ、「近藤社長とお会いしてみませんか?」ということに。
【近藤】梶原さんにお願いしたいと思ったのは、やはり、本当にものづくりがお好きな方だからです。ご自身で現場まで行っちゃうくらい。繊維のものづくりというのは非常に地味でして、職人技とか華麗な技というよりは、きっちりと決められたことを地道にやり続ける世界です。そういうことを大切にできる人が、想いを持って作っているからこそ、人の心を動かせるものを作れるのです。表面上のデザインだけなら頭の中でできるかもしれないですけれど、着心地がいいものだとか、触れてホッとするタオルは、作る人の想いが必要なんです。そういう現場の想いをつなげていきたくて。繊維製品はボタンを押せばロボットが作ってというものではないので、人の気持ちを大切にしなくては。梶原さんは、そういうことを分かってくださる方だと感じました。
(第二回へつづく)
次回はブランド立ち上げの経緯についてと、近藤紡績所のモノづくりの精神についてお伝えいたします。[*1] 西インド諸島産海島綿のDNAを100%受け継ぐ、アメリカ産の最高品質の超長綿。紡績時の撚りが少なく、素材本来の質感を発揮できることから生まれる、シルクのような光沢と繊細な柔軟性が特徴。
[*2] 「糸を紡がない」というアイデアから生まれた、近藤紡績所の新素材。柔らかさ、軽やかさ、暖かさに優れ、ストレスフリーな着心地を実現している。
特設サイト https://watanomama.jp/
近藤大揮
(株式会社 近藤紡績所 代表取締役 社長)
ブランドアドバイザー 梶原加奈子
(株式会社KAJIHARA DESIGN STUDIO 代表取締役 社長)
http://www.kajihara-design.com
【対談・第一回】連綿とつむぐ、物語のはじまり。
Date: 28.5.2021
Text: Mika Kunii
Photo: Daisuke Mizushima
Special Thanks: mesm Tokyo
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