renment

JOURNAL

Interview
2022. 7. 21

【対談・第二回】連綿とつむぐ、物語のはじまり。〜コットンへの想い、未来への願い、次の100年

一心に糸づくりを行ってきた近藤紡績所が、この度renment[レンメント]というプロジェクトブランドを立ち上げるにあたって重視したこととは。第二回ではブランドが立ち上がるまでの経緯と、近藤紡績所がコットンの糸づくりに対して貫いてきたフィロソフィー、そして「もういちど、はじめまして。コットン」の言葉に込めた想いをお聞きしました。

第二回
renment[レンメント]が立ち上がるまで
——コットンという素材が引き合わせた、近藤社長と梶原さんの幸福な出会い。そしてrenmentの立ち上げへ。その過程で、renmentならではの特徴的なことはありましたか?

【梶原】工場発進のブランディングに関わる場合、工場の技術の強みを掴み、工場で働いている人たちの想いを聞き、それを「伝える」にはどのような方法が良いか考え、カタチにしていくというのがいつもの進め方です。ただ今回は、伝えるという側面だけではなく、「近藤紡績所の未来を育てること」ということを重要な軸として捉えました。「未来」にはモノだけでなく人も含まれます。「100年後には、私たちの次の世代がすべてを繋いでいくことになる。だからこそ人を育てたい」という近藤社長の想いを最初に伺ったとき、繊維産業の未来を日本に残していくならば、これまで牽引してくださった職人さんたちの想いを引き継ぐ若手社員を育てなければと感じました。それがこのプロジェクトの大切なポイントなので、私が先導してブランドを作ってしまうのではなく、事前に毎回課題を出して、若手社員1人1人が考える。その考えを聞いてからアドバイスをして導きつつ進めるという方法で進めました。

【近藤】経験豊富な30年選手がこの会社にはたくさんいます。その知恵も借りたいし関わってほしいのですが、100年続けるためには、まずは次の20年30年をしっかりと。それは若い人にやってほしい。ですから、私より年上の人には申し訳ないけれど「若い人たちが本当に困って相談してきた時だけ助けてください」と。これをやれだとかは、私からもできるだけ言わないようにしました。やりたいと思うことを彼ら自身で考えてほしかったのです。

【梶原】通常の仕事では早くに結果を出すことを求められますが、待つことにも価値を置いて臨んだのが今回の特徴だと思います。信念を育てていくというか。
【近藤】その点では、梶原さんにご迷惑をおかけしたこともあるかと思います。アパレル業界では通常、SSやAW(春夏と秋冬)というシーズンに合わせて製品が必要なのですが、今回は「それは作っていただかなくても結構です」と言いました。renmentや近藤紡績所でしかできないことを、ひとつずつやっていこうと思ったのです。そうすると、やらないことがどんどん増えていきました。立ち上げまでのディスカッションでも色々アイテムをご提案頂きましたが、日の目を見なかったものも多くあります。

【梶原】SS,AWのスケジュールは小売主体で当たり前のように定義化されてきました。でも、ファッションの決まったルールを取り払い、モノづくりの追求を優先して進める。ストイックに考えたからこそ自信が持てるようになるし、想いが詰まった説得力のあるものができて、それをお客様に届けていける。近藤社長はたぶん、最初からその答えをお持ちだったのではと思います。私自身も、教える立場よりも一緒に学ばせていただいたという形になってしまったんですが(笑)。最初から答えが出ていたらここまで考えなかったと思います。歩んできた過程に意義がありました。

【近藤】若手社員たちも、毎週木曜日に打ち合わせと課題の締切があるので、ハードでストレスフルだったのかなと思います。頑張ってくれていますし、本当に頼もしいなと思っています。悩みも想いも納得いかないことも、遠慮なくぶつけてきてくれますし。私と社員とで直接話さなければ進まない課題も多かったのですが、メンバーの勤務地が離れていたため、打ち合わせは電話やzoomで。気軽に「ちょっとこれ聞きたいんですけれど」ができない距離感で、ハードルは高かったかもしれないです。

【梶原】そういう意味では、社長と社員の方のコミュニケーションをつなぐためのプロジェクトにもなっているのかなと思いますね。

【近藤】大切なのは、短期的な売り上げよりは長期的にものを考えること。100年とまではいかないにしても、5年10年で考えたとき、それが良いことかどうか?と問いかけるようにすることです。例えば、いま信州大学と共同で、海島綿の品種を保存するだけでなく、より良くする研究をしております。これは遺伝子組み換えとは異なり、DNAのどの部分が綿の品質に影響しているかを一つ一つ確認し、より良い遺伝子を持つ種子を選別していく……という試みです。海島綿の種は1年に1,2回しか収穫できませんから、研究の成果が出るには何年もかかります。ですが、長期的な視点で捉え、やる意義があると思っています。この取り組みのように、若い人には「我々が何をやりたいか?我々がどういう存在か?」を考え抜いてもらいたい。私自身も考えていますし、renmentはそういうプロジェクトなのだと思っています。
工場を見たとき、感じたこと
——梶原さんは長野県大町市の工場を見学されて、どんなことを感じましたか?

【梶原】これまで全国の撚糸工場、織物工場、編物工場、加工場は見てきた経験がありましたが、コットンの紡績工場を見学するのは初めてでワクワクしました。長野の素晴らしい北アルプスに囲まれた環境に圧倒されると共に、水が豊富な場所と感じました。きれいな水があってこそ、きれいな染色加工もできるし糸もつくれる。日本の繊維業界が発展したのは、水が豊かだったからではないかと思うのです。一方で、山脈の山に囲まれた環境を見て、みなさんが厳しい自然環境の中で頑張られていることにも思い至りました。私は北海道出身なので、自然の厳しさや苦労も想像できます。工場の中に入ってまず驚いたのが、空気のきれいさとホコリのなさ。コットンの機屋さんはホコリだらけの工場が多く、コットン=ホコリのイメージを持っていましたが、近藤紡績所さんの工場ではホコリを感じないことに驚きました。上質な糸を生産するために、工場の清掃を丁寧に気遣っていることを知り、毎日の努力の積み重ねが凛とした美しい糸を生み出しているのだと思いました。

【近藤】昔の紡績工場は、仕事をしていると顔にたくさん綿がついて、額の汗をぬぐえばワタボコリの塊が取れるし、紺色のズボンも真っ白になっていました。今の工場なら、ワタボコリを圧縮エアーで飛ばす程度で済みます。私はたとえスーツで入ったとしても、エアーで飛ばすことも必要ないくらいに思っていますね。

【梶原】糸を作るときに少しでもホコリが入ってしまうと、不良品になってしまうと伺いました。お客さまはクリーンなものが上がってきて当然だと思うでしょうけれど、そのクリーンさを作るためにどれだけの気遣いが要るか改めて感じまして。糸に会ったら「ありがとう、よく頑張ったね」って言いたい(笑)。空調がしっかりしていて、一日2〜3回の清掃時間をとっているのですよね。

【近藤】ええ、そうです。掃除をしっかりやることと、ホコリが飛び散らないように空調で吸い取ることが大事です。また、大量生産型の工場は、どうしても生産効率を求めるがゆえに高速で生産するのですが、それですとどうしても繊維を痛めてしまい、繊維がちぎれて飛び散るんです。大町工場は古い工場で、大量生産の時代が終わり国内の紡績工場を時代に合わせて縮小してきた経緯の中で、あえて残してきた工場です。以前は大町工場から車で15分ほどの所に、もっと新しい工場もあったのですが、あえて古い工場の方を残したんです。その理由は、設備が古いがゆえにゆっくりと作れて、繊維に優しい。だから繊維がちぎれなくてホコリが出ないという面もあります。
【梶原】糸をゆっくり作っているんですね。糸づくりは効率重視のところが多いと思うんですけれど、ゆっくり作ったほうが良いものができる、丁寧さを重視する紡績工場が日本にある、ということをうれしく思いました。でも世の中の速度と相反するところもある点で、葛藤はないですか?

【近藤】その点はバランスだと思っていて、葛藤も矛盾も感じていません。精紡機[1]や粗紡機[2]といった回転をする機械に関しては、新しい設備はモーター駆動なので、歯車で動く古い機械よりも動作の立ち上がりが滑らかで、テンション[3]もずっと上手にコントロールできます。また、糸の太さやムラを検知するカメラやセンサーについては最新鋭の良い機械がたくさんあって、そういったものは積極的に取り入れています。海島綿を紡出するにあたって、このような設備は最新鋭の機械に入れ替えてきました。一方で、糸の物理的な作り方は昔から変わっていないので、センサーやカメラ、モーターが必要ないような古くから変わらない工程は、繊維を大切にして傷めないようにするために、古い機械を残しています。ただし、どうしても生産性は悪く、新しい機械であれば1台でできることを、古い機械だったら6〜7台かけてやります。古い機械ですから、その機械の整備や調整もそれ以上手間暇かけてやります。けれど、これをやめてしまったら日本で、この工場で、やる意味がなくなってしまいます。海島綿やwatanomamaといった良いものを作りたいという想いが一番にありますので、とにかく繊維を大切にしないことには良いものが出来てこないのですから、葛藤はないですね。

【梶原】機械もトヨタではなくTOYODAと書いてあります。

【近藤】トヨタ自動車の社長は、とよ「だ」あきお氏ですよね。トヨタ自動車は元々、豊田(とよだ)自動織機製作所(現:株式会社豊田自動織機)という紡績機械を作る会社が分社化してできた会社です。その、トヨダ製の機械を今も使っています。

【梶原】そういう機械にも出会い、歴史を感じて感激しました。私は感覚的な人間なので、ゆっくりと綿がのびのび作られて喜んでいると感じます。ASICも海島綿も優しい風合いの糸だと思いますが、あの糸はこんなふうに出来ているのかと思うとさらに愛おしく……。メンテナンスも自社でやると言われていますが?

【近藤】基本はすべて自分たちでやるというスタンスです。そうしないと、ものごとの原理原則がわからないので。デジタルの世界ではないので、物を作る仕組みも実は100年前からほとんど変わっていなくて、そこを分かっていないと工夫も改善もできないんです。柄模様などはコンピュータで作ればできるんですけど、人の心に訴えかけるものや面白いものを作るには、根本を理解していなければ、加減も調整できないんです。素材を活かすというのはそういうことだと思っていて。色や加工でごまかすとかいう事ではなく、日本料理のように素材の良さを引き出すために、基本に忠実に、塩だけで召し上がっていただくようなイメージですね。そのためには自社内でやってないと。非効率なのは百も承知ですが、それをやるからこそ意味があると思っています。

【梶原】それがメイド・イン・ジャパン、日本食や、お酒、お米づくりの本質にも通じます。世界で日本のものづくりがリスペクトされているのも、きっとその精神性だと思うんです。
「もういちど、はじめまして。コットン」の言葉に込めた想い
——「もういちど、はじめまして。コットン」の言葉に込めた想いとは?

【梶原】「はじめまして」には、今まであたり前だと思っていたものと出会いなおす、という意味が込められています。コットンって、どんな素材よりも身近な素材ですよね。生まれて最初に出会う素材であり、これからもずっとそれなしでは生きられないような、生活になじんでいるもの。そのコットンにおいても、これだけ様々なクオリティがあるし、工程においても知らないことがいっぱいある。知っていたつもりだけど全然知らないことばかり。なので、お客さまがrenmentを通して、コットンの価値にも魅力にも気づいて、「もういちど、はじめまして」の気持ちで出会っていただきたい、という想いが込められています。

【近藤】そうですね。お客さまがコットンを使うたび気分をリセットして、仕事に臨むとか、ゆったりするとか、心が動く「はじめまして」をたくさん体感していただきたいです。

【梶原】もうひとつは、社員のみなさまが日々はじめましての気持ちで仕事に臨んだり、コットンと向き合っていくという意味です。はじめましての時って緊張しますよね、入学式とか入社式とか。そういう気持ちを忘れないでいると、良いものができるのかなと思うのです。工場の方々が毎日体調管理に気をつけて気を抜かずにいるのは、まるで禅を組むような気持ちなのかと想像します。「はじめまして」の気持ちが脈々と続いて、近藤紡績所さんの魂につながっていくのではないでしょうか。

【近藤】褒めていただきありがたいです。「できてあたり前」のことをやり続けるのは実に大変ですから。

【梶原】こういう、みなさんが共有できる指針があれば、そこに向かって進み、がんばることもできます。「はじめまして」という言葉は立場によってさまざまな捉え方ができるので想像も広がるし、指針になる言葉。きっと工場にも飾られるのかなと思います(笑)。

【近藤】ええ、工場や現場にもしっかりと(笑)。

【梶原】あと、「もういちど」という言葉が優しさだなと思います。リセットは、許しであり輪廻であり出会いであり、だからこそ続いていけるのだと。コピーを決めるときもみんなで考えて、最終的にはrenmentらしさが生まれたと感じます。
近藤紡績所、ものづくりの精神の原点
【近藤】そういう自分たちの志は、やっぱり伝えなくてはいけない。世の中にも社員たちにも。それも私の仕事であると思うのですが、本当は人前に出るのは全然好きじゃなくて……今まで会社としてもそういうことをしてこなかったんです。

【梶原】一年と少し、毎週話し合いながら進めてきましたが、近藤社長は仰ることが一貫しているので、そのメッセージに深く共感できるんです。言葉に濁りがないというか。

【近藤】それは、父親から言われたことが影響しています。「嘘をつくと、嘘をついたことを覚えていなければいけないから大変だぞ。いつも思ったことを正直に言っていれば、何にも覚えていなくてもいいから良いんだぞ」と。辻褄が合うわけですからね。父親とは、普段は性格が違う感じがして、合わないところもあるんですけれどね(笑)。

――それは、近藤紡績所のものづくりの精神そのものですよね?

【近藤】実は、我々はオーガニックコットンをあえてやってこなかったのですが、理由はそこにあります。本当にオーガニックだけが良いのかどうか?というのは、たとえばこのコロナ禍でワクチンなどテクノロジー無しで生きていけますか?というのと似た感じだと思っていて。テクノロジーと共存するのも大事だと思っているのです。

――要するにバランスですよね。オーガニックについても、そこは一度ちゃんと考える姿勢も大切。

【近藤】本当に地球の人たちがオーガニックだけで生きていけるのであれば、それがいちばん環境にもいいと思うんです。でも、それだけでは時に虫が発生したり、農家が立ち直れないくらい大ダメージを受けてしまうようなこともありますよね。そうなってしまっては、それ自体が永く続けられない仕組みということになってしまう。際限なく農薬を使っていいわけではなくて、減らしていく努力をするとか、より環境に配慮するとか、遺伝子組み換えもできるだけ減らしていくとか、バランスをとっていくべきかなと思います。理想はオーガニックだけですべて賄えたら素晴らしいなとは思いますが、増え続ける人口を賄ったり、農家の方々が環境と折り合いをつけながら長く生産を続けていったりするためには、バランスが大切だと思っています。オーガニックだけが良い悪いではなくて、一つの選択肢という事だと思います。そういった中で、海島綿は遺伝子組み替えをしない原種をずっと守り続けていることに価値があると思いますから、これは絶対に護っていきたい。つまり、より良い方向に向かって、いろいろと考えながら、迷いながら、一方でゆずれない部分は絶対に護っていく姿勢が大事かなと思います。

――そう言うものの見方を、世の中の人とも分かち合うことは大切だと思います。

【近藤】もちろん、立場によれば答も違うのかなと思いますけれど。

(第三回へつづく)
次回は、コットンが抱えている社会課題や、renmentの目指す姿についてお伝えいたします。[1] 粗糸という太めの糸を引き延ばして糸をつむぐ機械。
[2] 精紡機に仕掛ける粗糸を作る機械。
[3] 紡績中の糸の張力のこと。テンションを一定に保つと安定した品質の糸ができる。
——Profile

近藤大揮
(株式会社 近藤紡績所 代表取締役 社長)

ブランドアドバイザー 梶原加奈子
(株式会社KAJIHARA DESIGN STUDIO 代表取締役 社長)

北海道生まれ。多摩美術大学デザイン学部染織科卒業。株式会社イッセイミヤケ・テキスタイル企画を経て渡英。王立芸術大学院RCAにてMA取得。2006年帰国後、札幌と東京を拠点に(株)KAJIHARA DESIGN STUDIO設立。国内外でクリエイティブディレクター&テキスタイルデザイナーとしてブランディングや商品企画に関わり、札幌の自然のなかに複合施設COQを立ち上げる。日本のものづくりの継承を考えた活動や未来に向けて新たな価値観を創造することを通して、テキスタイルの持つ豊かな可能性を暮らしのなかに提案している。
http://www.kajihara-design.com
renment journal vol. 002
【対談・第二回】連綿とつむぐ、物語のはじまり。

Date: 28.5.2021
Text: Mika Kunii
Photo: Daisuke Mizushima
Special Thanks: mesm Tokyo

本対談にあたっては「メズム東京 オートグラフ コレクション(https://www.mesm.jp/)」のゲストルームをご提供いただきました。メズム東京のゲストルームでは、renmentとのコラボレーションで生まれたバスローブ兼パジャマ「KIMONOローブ」が提供されています。着物から着想を得たデザインの「KIMONOローブ」は、綿わたニット素材で肌にやさしく、うっとりするようなしっとりさらさらな肌触りを実現しました。

RECENT JOURNAL

記事一覧へ

TOP JOURNAL 【対談・第三回】連綿とつむぐ、物語のはじまり。〜コットンへの想い、未来への願い、次の100年