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Column
2022. 7. 21

【つなげていく人】企業の垣根を超え、仲間と共に新しいモノづくりに挑戦する「今治タオル青年部会」の記録。

愛媛県今治市は約120年間、タオルづくりの聖地として、タオル産業の発展を担ってきた。その背景には、若手後継者で構成された「今治タオル青年部会」の存在がある。代々受け継がれるタオル産業の未来を担う青年部会の取り組みと共に、青年部会が今回コットンの最高峰と言われるカリブ産シーアイランドコットンを使い、とことんこだわりを持って作った“ おんまくええタオル”を合せて紹介していく。

今治タオル青年部会とは?
国内最大規模のタオル産地にして、今や国産の高品質タオルの代名詞となった「今治タオル」。今治タオルでは独自の品質基準を設けており、その使い心地は国内外で高い評価を得ている。今治のタオル産地としての歴史は長い。1886年に矢野七三郎が「伊予綿ネル」(綿織物を起毛した織物)を完成させ、その後、綿ネル製造事業者の阿部平助が綿ネル織機を改造してタオルづくりをはじめたのが今治のタオル産業のルーツといわれている。以来、約130年にわたってタオルづくりが行われてきた。そのため、今治には何代も続くタオルメーカーが多く、100年企業も珍しくはない。
その代々続くタオル産地の背景に、今治タオル青年部会(以下:青年部会)がある。青年部会は、「タオル業界の発展向上に資する青年中堅層の結束」を目的に1963年に立ち上がった。現在は45歳以下の若手経営者で構成され、タオルメーカーや染色、刺繍業など今治タオルに関連する企業から35人(*2022年3月取材当時)が加盟している。定期的に外部講師を呼んでセミナーを催したり、市場研究や産地の将来についてブレインストーミングを行っている。また、地元工業高校との交流授業にも取り組んでおり、生徒とともにタオル商品開発のディスカッションを行うなど、地域社会への貢献も行ってきた。青年部会副会長を務める みやざきタオル(株)の宮崎専務は「タオル屋っていうのは結構孤独な仕事だと思っているんです。でも青年部会に行ったら僕は嬉しかった。たまたまかもしれないけど、タオル屋に生まれた者同士が多くいたしね。会社の歴史とか規模はみんな大なり小なりあるんですけど、すごく愛着を感じます。」と話してくれた。
挑戦のはじまり。
青年部会が新たなチャレンジとして2017年から始めたのが、青年部会オリジナル製品の開発だ。各社がアイデアを出し合い製品を企画。2017年から2018年にかけてタオル生地で作ったパンツを企画。2019年から2020年にはタオル生地Tシャツを製品化し限定数で販売したところ、すぐに売り切れてしまった。またメンバーの皆で企画をする意図に「タオル生地のTシャツを1社だけでやっても広まらない。例えば10社がやったら10種類のTシャツができる。そうすれば商品の棚を1つ埋められ、お客様もさまざまな選択肢で買ってもらえる事ができる。商品が広がることによって、さらに今治タオルが広がるきっかけにつながる」という考えがあった。そして、第3弾にあたる次の製品企画を検討している時に話題に上がったのが、繊維の宝石と呼ばれているコットン、カリブ産シーアイランドコットン(以下WISIC)であった。WISICは年間の生産量がコットン全体の10万分の1という大変希少価値の高い素材で、コットンの中でも最高の繊維長を誇ると言われ、シルクのような光沢とカシミヤのような肌ざわりを持つ。WISICで作られた製品は、英国王室の御用達として名高い。
今回の取り組みが、今治のタオルメーカー各社がWISICを取り扱うきっかけになれたら良いという思いもあったが、以前にあったルールの影響で、今治のタオルメーカーはWISICを扱ったことはほとんどなく、またコスト面を考えてもハードルが高いことも事実だった。実際にサンプル用の糸を手配するだけで100万円ほど掛かってしまう。その為、良い糸だという事を知っていてもノウハウがないとWISIC開発の一歩が踏み出し辛い。そこで、コストやリスクを考慮する必要のあるビジネスベースではなく、今治産地を盛り上げるために青年部会の取り組みとして開発をしてみたらどうだろうかという意見が出た。今回の企画を主導した(株)藤高の藤高代表(以下:藤高代表)は「以前のルールでは使えなかった“コットンの最高峰”が、ルールが緩和されることとなって使えることになったのに、今治タオルには商品がない。以前からとても良い糸というのも知っていたから、今治を代表するタオルでアンテナショップをやっている以上は、そのWISICを外すわけにはいかんでしょうと。今回の青年部会の企画としてはふさわしいはず。まずは青年部会でベースとなる製品を作っておけば、今後産地でかならず広がっていくのではないかと。その意図で青年部会へは今回の企画はWISICでいきますと提案しました。」と話してくれた。こうして、最高峰の素材“カリブ産シーアイランドコットン”を使って、技術の限りを詰め込んだタオル開発プロジェクトが始まった。
手間暇を惜しまない。
タオルを作るうえで基礎となる“織る工程”は塚本綿布(株)の塚本専務が担当した。「一般的な今治タオルより20%ほど密度を高く織ることで、下地にコシが出てしっかりとした仕上がりになるんです。」今治産地の数あるメーカーの中でも、この密度でタオルを織れるメーカーは、ごく一部に限られるとのことだ。肌に直接あたるパイル糸にもこだわった。糸の加工を担当した藤高代表は「WISICのタオルを作製するにあたって、素材の良さをシンプルに引き出すことが一番のコンセプト」と語る。撚り(より)が少なければ単純に糸は柔らかくなるが、耐久性が劣る。丁度良いバランスになるように、絶妙な糸の撚りを追求した。柔らかい風合いをできるだけ長持ちさせるための工夫だ。さらに、製造の仕上げとなる洗いの工程では、従来高温の熱湯でタオルを洗うところを、一晩かけて低温の湯の中に漬け込む方法で洗っている。「温度を上げると綿の繊維が壊れてしまうんです。温度を極力上げないようにして、綿へのダメージを少なくしています」。非常に時間も手間もかかる方法だが、よりWISICの良さを引き出すためには手間暇を惜しまない。藤高代表曰く「実際使ってみて思ったんですけど、無撚糸のタオルは冷たく感じないですか?水は吸ってるんだけど、微妙に水滴が残ってるのか、なんか冷いというか…このタオルのあえて無撚糸までいっていない超甘撚りということで、無撚糸のそのような欠点がなかったんですよね。拭いてても、すーっと肌にパイルがいっぱいあたって、パッと水を吸ってくれて、しかも柔らかい。絶妙なバランスやったんですよ。塚本綿布さんのタオルの規格があった糸番手で作れてほんとよかったです。」とのこと。
しかし今回のタオルの制作を進めるにあたり“タオルのパイル抜け”の問題がおきてしまった。今回使用している“最高の繊維長誇る糸”WISICならではの悩みどころで、糸自体に毛羽(ケバ)がほとんどなく滑りやすくなってしまい、パイルが抜けてしまう。最高峰であるが故のジレンマ、綺麗で良い糸だからこそ起きてしまった問題だった。初めてサンプルを織る時点でパイル抜けが起きないように密度を少し上げたが、予想以上に抜けが多かった。更に限界まで打ち込み密度を上げたり、経(タテ)糸の番手変更など、様々な微調整をして対策を行い製品化を進めた。それでも本番では軽度の抜けは発生してしまったが、一点づつしっかり手間暇をかけて補正を行って良いものに仕上げた。もちろん糸の番手を太くすればパイル抜けも減っていただろうが、それだとWISIC本来の良さを損なってしまうので、こだわりのある良いものを作る為に、通常より手間暇をかける方をあえて選んで製品化につなげた。
こだわりの製品が完成。
こうして、今治の各タオルメーカーがそれぞれ意見を出し合って皆で協力をし、糸の製法から仕上げ方、手すきの和紙の現地まで足を運び決めたパッケージに至るまで、手間暇をかけ自分たちが良いと思う“こだわり”を詰め込んだタオルを完成させた。その名も「今治タオル青年部会がつくったちょっと高いけどおんまくええタオル」。“おんまくええ”とは方言で“めちゃくちゃ良い”という意味。手にした時の感動を、ストレートに伝えたいとの想いから命名した。出来上がったタオルを触ってみると、手触りはふんわりと柔らかく軽いが、芯にしっかりとしたコシがありボリュームもしっかりある。そして、WISIC特有の艶やかな光沢がそのまま活かされているのが特徴だ。
この完成した「今治タオル青年部会がつくったちょっと高いけどおんまくええタオル」は、先日 今治タオルオフィシャルショップである本店、南青山店及びオンラインストアでの販売が開始された。オンラインで用意した在庫は、ほぼ完売。店頭でも好調に推移をしている。アンケートでも購入の決め手が「品質」が圧倒的に多く、WISICという最高品質の糸を使い、ここまでの手間暇とこだわりが詰まった商品であれば、むしろバスタオルで2万円は、価格以上の価値を感じる人の方が多かったのかもしれない。「これだけ良い結果が出てるんで、価格に見合う商品をつくれば売れるんだということを、認識してもらうことは青年部会、今治にとって必ずプラスにつながるはずだ」と藤高代表は考える。また青年部会の広報が積極的な活動を行いSNSでの発信に加え、様々なメディアにアプローチをかけた結果、発売当初に、新聞など様々な媒体に載った事が更に販売の後押しをしたといえる。そして今回の製品の開発をきっかけに、今治のタオルメーカーからWISICを使った「おんまくええタオル」の後継タオルに挑戦したいと手が挙がるなど、少しずつではあるが、今回のタオルを作った想いが形になってきている。
完成したタオルを前に、改めて今回の「おんまくええタオル」企画の中心となった藤高代表に、タオルを手に取ってくれる人に贈る言葉を尋ねた。「毎日肌に触れるものだからこそ、そこに込められた想いとか、こだわりを感じてほしいです。そして、今治のことや、WISICに興味を持って、好きになってもらいたいです。」今治タオル青年部会のメンバーは、所属する企業の規模も大小さまざまで、時にはライバル企業となる場合もある。そんな中で、今治タオル産地という枠組みで若手が集まり、メーカーの垣根を超え、産地を盛り上げよう、未来につながるような取り組みをしようと語り合っている。今治タオルの伝統を受け継いだ若い世代が支えあい、語り合い、切磋琢磨し続ける仲間がいる。だからこそ、今治のタオルは今後も進化し続けていく。そうして今治産地全体で作り上げた価値が、高い品質に裏付けられた「今治タオルブランド」として、今後も産地を守っていくのだろう。

(おわり)
——Profile

今治タオル青年部会

愛媛県今治市で「タオル業界の発展向上に資する青年中堅層の結束」目的に、1963年に創設した各企業の若手後継者の団体。

renment journal vol. 008
【つなげていく人】
企業の垣根を超え、仲間と共に新しいモノづくりに挑戦する「今治タオル青年部会」の記録。

Date: 21.07.2022
Text: Yuki Shimizu&Shinji Kobayashi
Photo: Shinji Kobayashi
Special Thanks: imabari towel youth group

*今回の取材させていただきました今治タオル青年部会が作った「今治タオル青年部会がつくったちょっと高いけどおんまくええタオル」を、特別に数量限定にて本サイトのオンラインストアにて発売させていただける事となりました。商品ご購入ご希望の方は、本サイトオンラインストアもしくは、下記より商品ページにアクセスをお願いいたします。

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